音楽を聴いていると、時間の流れ方が変わることがある
同じ1分間でも、「あっという間に過ぎた」と感じる曲もあれば、「まだ1分?」と感じる曲もあります。
これは単にテンポの速さや曲の長さだけでは説明できません。
音楽の中で鳴っている“音そのもの”の性質によって、私たちの時間感覚は揺さぶられているのではないでしょうか。
「現実味のある音」は、現実世界と同じように時間が流れる
たとえば、
- ドラムのスティックが皮に当たる「タン」という音
- ギターの弦をピックで弾いたときの「ジャッ」という音
- 息が混じった人の声が、近くで聞こえるような感覚
こうした音は、私たちがふだん生活の中で耳にしている「現実の音」に近く、身体や空間の存在を感じさせます。
それらが曲の中で鳴っていると、時間も“現実と同じように”自然に進んでいくように感じます。
「現実味のない音」は、時間を止める
一方で、こんな音もあります。
- 空間に広がる、輪郭のはっきりしないシンセの音
- 遠くから聞こえるように加工された声
- 水中や霧の中にいるような、ぼやけた響き
こうした音は、現実の中ではなかなか聞かない種類のもので、私たちを“いま、ここ”から切り離します。
その結果、時間が止まったように感じられたり、ゆっくり引き延ばされたような感覚が生まれるのです。
音の特徴と、時間の感じ方の関係
より具体的に、音の性質と時間の流れ方の関係を整理してみます。
音の密度や粒子感
- 音数が多く、動きが細かい → 時間が密に、詰まって感じられる
- 音数が少なく、間が多い → 時間がゆっくり流れる
響き方や残響の長さ
- 響きが短く、すぐに終わる音 → 時間がカチッと進んでいく感覚
- 長く響き続ける音 → 一つの時間が引き延ばされる感覚
メロディの動き方
- 展開していくメロディ → 時間が前に進む
- 繰り返しやわずかな動き → 時間が停滞、または輪の中に入ったような感覚
好みの音と、この話の関係
私は個人的に、「楽器がその楽器らしく、気持ちよく鳴っている音」が好きです。
ちゃんとしたアコースティックのドラムがしっかり録れていて、ギターやベースも人の手で弾かれている感じがして、その楽器が“らしく”響いている音。
こういう音には“現実味”があって、空気や手触りが感じられて、自然と時間が流れていきます。
だからこの「音の現実味と時間の流れの関係」は、自分の好みとはちょっと距離がある話に思えるかもしれません。
でも実は、その距離があるからこそ、この現象をうまく使えば、音楽により深い表現が生まれるとも思うのです。
「時間を止める音」を意図的に使うということ
ふだんは“時間を進める”音で曲を構成していたとしても、
その中にほんの少しだけ、“時間を止める”ような音を置くことで、
聴き手の感覚を揺らしたり、ふと立ち止まらせる瞬間をつくることができます。
これは、心理的な効果としても強く作用します。
たとえば、
- サビの前で一度、夢のような世界に落ちてから現実に戻る
- 曲の終わりに向けて、時間が止まっていくようにフェードしていく
- イントロで現実感のない音を使って、リスナーを別世界に誘う
など、時間の流れをコントロールすることで、物語や感情の深みが変わるのです。
音は、ただ「鳴っている」だけではなく、聴く人の時間の感じ方さえ変えてしまう。
それはとても不思議で、そして強力な表現手段です。
音の現実味と非現実味を意識して曲を作ったり聴いたりしてみると、
同じ音楽でもまったく違う表情が見えてくるかもしれません。
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